― 内なる陰陽を癒し、調和させる ―
私たちの中には、誰の中にも「父性」と「母性」
という二つのエネルギーが息づいています。
それは単に性別による区別ではなく、
心の陰陽としての二つの働きです。
父性は「方向性」「意志」「行動」
という陽の性質を持ち、
母性は「受容」「包容」「癒し」
という陰の性質を持ちます。
この二つが調和しているとき、
人は自分の軸を保ちながら、
他者や世界と優しく関わることができます。
けれどどちらかに偏ると、
心も身体も不調和を起こし始めます。
父性と母性のバランスがもたらすもの
たとえば、父性が強くなりすぎると
「頑張らなければ」「正しくあらねば」と
自分にも他者にも厳しくなり、
緊張が続きます。
逆に母性が過剰になると、
「誰かを助けなければ」「嫌われたくない」
と他者に合わせすぎて、
自分を見失いやすくなります。
父性は「太陽」のように照らし導き、
母性は「月」のように包み癒す。
どちらも生命に不可欠な光です。
氣功の観点から見れば、
父性は「動く氣(陽)」、
母性は「鎮まる氣(陰)」といえます。
陽が陰を照らし、陰が陽を支える──
そのバランスが取れたとき、
氣の流れは自然と調和します。
家族・社会に映る内なる陰陽
家庭の中で、父親が不在がちで母親が
すべてを担っていた場合、
子どもは「母性の過剰」を内面化
しやすくなります。
反対に、厳格な父親と
感情を抑える母親のもとで育つと、
「父性の過剰」としての完璧主義が形成
されやすくなります。
社会構造もまた同じです。
競争・効率・合理性を重んじる社会は
父性の側に偏り、
やがてケアや感情、共感といった
母性の価値が抑圧されていきます。
しかし、偏りはどちらに傾いても
長くは続きません。
自然界と同じように、
行きすぎた陽はやがて陰へと転じ、
時代は「調和」へと回帰しようとします。
内なる父と母を統合する心理的氣功
氣功の実践では、呼吸とともに
「中心(丹田)」を整えることを
大切にします。
父性が乱れているときは、
氣が上に昇りすぎて頭が固くなり、
母性が過剰なときは、氣が外に散って
自分の軸が失われます。
呼吸を丹田に沈めることは、
陽(行動)と陰(受容)を一つに戻す
行為なのです。
心理的にも同じです。
自分の中の厳しい声(父性)を
責めずに見守り、
甘えや弱さ(母性)を否定せずに抱く。
その両方を「観照」することで、
内なる陰陽が溶け合っていきます。
それはまるで、
太陽と月が同じ空に浮かぶ“
薄明(はくめい)”の時間のよう。
そこには昼でも夜でもない、
静かな調和の光が漂っています。
調和の先に生まれる創造の力
父性と母性が統合されたとき、
私たちは「行動」と「受容」を
同時に生きるようになります。
頑張ることも、休むことも、
どちらも自然にできる。
与えることも、受け取ることも、
循環として感じられる。
この状態こそ、氣が最もスムーズに
流れる“中庸”の在り方。
人間関係でも、仕事でも、創造でも、
調和から生まれる行動には無理がなく、
周囲との共鳴が起こります。
「父性と母性を統合する」とは、
自分の中に“二つの愛”を
同居させること。
それは他者との調和を超え、
宇宙との一体感へとつながる氣功的な
悟りの入り口でもあります。
二つの愛──成熟した父性と母性が導くもの
「父性と母性を統合する」とは、
単に“バランスをとる”という意味では
ありません。
それは、自分の中にある
二つの愛の成熟を意味します。
🌞 父性の愛──導く力、信じる力
成熟した父性の愛とは、
支配や管理ではなく、
「信じて見守る」愛です。
相手を自分の思う形に変えようとせず、
その人が自分の道を歩むことを信じ、
背中を押す。
それは太陽のように照らすけれど、
焦がさない温度。
この父性が成熟すると、
人生に明確な方向性と意志が生まれます。
何を大切にし、
どんな世界を築きたいのか──
内なる「軸」が定まり、
他人の評価に揺らがなくなる。
社会においては、この父性が
理念や秩序を育てる力になります。
正義や責任をもって物事を進める
リーダーシップ。
そして、混乱の中でも
「道」を見出す洞察。
成熟した父性は、恐れではなく信頼から
人を導くのです。
🌙 母性の愛──包む力、育む力
一方、成熟した母性の愛は、
相手をただ受け入れ、
存在そのものを肯定する力です。
結果や成果ではなく、
「そのままでいい」という温かさ。
それは無条件の受容であり、生命を
再生させるエネルギー。
この母性が成熟すると、
他者や社会を「欠けた存在」ではなく、
すでに成長の途上にある
“生命の流れ”として観るようになります。
その視点は、他者を裁かず、支配せず、
自然と助け合いを生み出します。
社会においては、成熟した母性が
つながりと共感の土壌をつくります。
誰もが安心して本音を語れる場、
競争ではなく共創が生まれるコミュニティ。
母性の愛は、
社会に「育つ空間」を与えるのです。
父性と母性の統合──愛の循環としての調和
父性が道を示し、
母性がその道を温める。
父性が未来を構想し、
母性が現在を包み支える。
この二つが互いを尊重し合うとき、
人の内にも社会の中にも
「愛の循環」が生まれます。
氣功的にいえば、
父性は上昇する氣、母性は下降する氣。
上がる氣と降りる氣が一点で交わる場所
──それが丹田です。
内なる丹田に意識を戻すとき、
二つの愛はひとつに融け、
静けさの中から力が立ち上がります。
成熟とは、「どちらかになること」
ではなく、
どちらも生きていることを許すこと。
そのとき人は、
導きながら包み、主張しながら聴く、
柔らかくも揺るがない存在へと
変わっていきます。
父性が道を照らし、母性がその道を育てる。
その循環の中で、私たちは個としても社会としても成熟という名の調和へと進化していくのです。

馬明香(ま あすか)
氣功師、ヒーラー、セラピスト
認知科学をベースとしたヒーリングと中国の伝統気功を用いて、病人を辞めて、本来の自分の生き方に立ち返り自己実現を目指す生き方を追求している。
本当になりたい自分を実現し生きることこそ、病気を治すことの唯一の道であり、どんな状況にあっても自分の価値を探求しながら人生を生きることが人の本当の幸せであることを信じて活動している。
「道タオ」に通じる気功的な生き方、すなわち、頑張らず無理せず、自然体であれば、自ずと自分が持っている本来の魅力や能力が発揮され、健康に豊かに幸せに生きられるはず。
人生のパフォーマンスを最高に高めていくための一つの道具として氣功を提案している。