1. 結果で測られる時代に
現代社会は「何を成し遂げたか」で人を評価します。
点数、成果、数字。
そうした結果承認の文化の中で、
私たちは無意識に「できる自分」だけを
生きようとしてしまいます。
けれども、ほんとうに人を支えるのは、
「あなたがここにいていい」という存在承認です。
何もしていなくても、
どんな状態であっても、
あなたの存在が尊ばれている――
その感覚こそ、
人間の根を支える“生命の氣”です。
2. 承認の四階層 ― 人がほんとうに求めているもの
心理学的に見ると、承認にはおおまかに4つの段階があります。
- 結果承認:成果や成功を褒める
- 行動承認:努力や過程を認める
- 思考承認:意見や考え方を尊重する
- 存在承認:何もしていなくても「あなたがここにいること」を受け入れる
日本の教育や社会は、
第一層(結果承認)に偏りがちです。
そのため、人の自己肯定感は脆く、
「評価がないと不安」
という生き方に傾きます。
存在承認の欠如は、個人の課題ではなく、
社会全体の氣の滞りとも言えます。
3. 存在承認が欠ける社会は、氣が滞る社会
存在を認められないということは、
「生きることが条件付きになっている」
ということ。
この状態では、
人の氣(生命エネルギー)は常に緊張し、
安心して流れることができません。
氣功的に言えば、
「本来の氣(無条件の生命エネルギー)」が
塞がれた状態。
この詰まりを解く鍵こそ、
be with ― ともに在るという在り方なのです。
4. be with ― 存在承認を生きるということ
“be with”とは、相手の痛みを変えようとも、
癒そうともせず、
ただ静かに、
その存在と呼吸をともにすること。
このとき、私たちは「行為」ではなく
「存在」で癒しを生み出しています。
心理学者カール・ロジャーズが語ったように、
人が成長するために必要なのは
無条件の肯定的関心。
氣功の言葉で言えば、
それは「観照(かんしょう)」です。
判断を超え、善悪を手放し、
相手の生命そのものを“氣として観る”。
この意識状態の中で、
癒しは自然に起こります。
5. 科学が見つめた「ハートの力」
― ハートマス研究所の研究から ―
米国の
**ハートマス研究所(HeartMath Institute)**は、
心拍変動(HRV)を通じて
「心臓と感情、脳の関係」を研究してきました。
彼らが見いだしたのは、
心拍・呼吸・感情・脳波が同調する
“コヒーランス(coherence)”状態です。
この状態では、自律神経が安定し、
ストレス耐性が高まり、
創造性や集中力が向上することが
実証されています。
特に、感謝・思いやり・慈しみ
といったポジティブな感情を抱くと、
心拍リズムが美しい波形
(ハート・リズム)に整い、
脳機能も安定することがわかっています。
(参考:HeartMath Institute, The Science of the Heart, 2016)
さらに、ひとりのコヒーランス状態が
周囲にも影響を及ぼすという
**グループ・コヒーランス
(場の共鳴)**現象も観測され、
心の静けさが社会や地球全体に波及する
可能性まで研究されています。
6. be with は、愛の最も静かなかたち
be with とは、“何かをする愛”ではなく、
“何もしないでともに在る”愛です。
相手の痛みと一緒に呼吸し、
その痛みが
「ここにあっていい」と感じること。
それだけで、氣の流れは静かに整っていきます。
このとき、ヒーラーと相手の区別は薄れ、
両者の氣はひとつの場に溶けていきます。
それが、三和氣功でいう
「共鳴→中和→再統合」のプロセスです。
7. 三和氣功における「ハートのヒーリング」
三和氣功のヒーリングは、
技法ではなく「在り方」を重視します。
それが、be with の哲学と
完全に一致します。
どのような気功の技術も、
「在り方」次第で、
毒にもなるし
効力のない小手先の
未熟な技で終わります。
ハートの中心は、
感情と意識の交点であり、
天(意識)と地(身体)を結ぶ
中軸の門。
ここに氣が通ると、全身の生命力が共鳴し、
癒しが自然に始まります。
ハートを通すヒーリングは、
相手の痛みを取り除くのではなく、
「痛みとともに在る」という
静寂の共鳴を起こす実践です。
8. ハートのヒーリングがもたらす4つの変化
― be with の哲学を“氣”で生きる ―
① 身体:緊張がほどけ、生命の循環が戻る
ハートが静まると副交感神経が働き、
呼吸が深まります。
血流や免疫が整い、筋肉のこわばりが自然にゆるむ。
ハートマスの研究でも、コヒーランス状態が
心拍リズムの安定とストレスホルモン低下を
もたらすと報告されています。
静けさは、肉体を通して神経と氣を調律する。
② 感情:痛みを拒まなくなり、心が流れる
ハートを感じることで、
抑圧していた感情が再び氣として流れます。
怒りや悲しみは、
愛を求めていた生命のエネルギーに過ぎません。
感じることによって、
氣が再統合され、心は軽くなる。
感情が流れるとは、氣が生命の方向に流れること。
③ 人間関係・社会:防御がほどけ、共鳴が始まる
ハートが開くと、他者を“敵”ではなく
“鏡”として感じられます。
競争ではなく、共鳴の関係が生まれ、
相互理解と調和が自然に広がる。
ハートマス研究所は、
この現象をソーシャル・コヒーランスと呼び、
個人の静けさが集団の安定を
高める可能性を示唆しています。
人間関係を変えるのではなく、関わり方の氣が変わる。
④ 人生・現実:宇宙のリズムに還る
ハートは創造の中心。
ここが整うと、
思考・感情・行動がひとつにまとまり、
人生が“努力”から“流れ”へと変化します。
ハートが開くと、人生は「がんばる」から「流れる」へ変わる。
9. 結論:be with の哲学が、氣功という生き方になる
ハートのヒーリングとは、
愛を“感じる”ことではなく、
愛として在ることの実践です。
be with ― ともに在る。
それは、存在承認であり、観照であり、
宇宙の氣と調和する生き方です。
あなたが静けさとして在るとき、
世界のどこかで、誰かの心がやわらかくほどけていく。
be with, and the world will heal.
前編コラム
🌿 病と癒し ― 整えるより、還る
病を悪者にせず、陰の中の光を見る。
“治す”ではなく“還る”という癒しの原点から、観照と治癒の関係を紐解きます。

馬明香(ま あすか)
氣功師、ヒーラー、セラピスト
認知科学をベースとしたヒーリングと中国の伝統気功を用いて、病人を辞めて、本来の自分の生き方に立ち返り自己実現を目指す生き方を追求している。
本当になりたい自分を実現し生きることこそ、病気を治すことの唯一の道であり、どんな状況にあっても自分の価値を探求しながら人生を生きることが人の本当の幸せであることを信じて活動している。
「道タオ」に通じる気功的な生き方、すなわち、頑張らず無理せず、自然体であれば、自ずと自分が持っている本来の魅力や能力が発揮され、健康に豊かに幸せに生きられるはず。
人生のパフォーマンスを最高に高めていくための一つの道具として氣功を提案している。