夜明け前の静けさには、まだ見ぬ光の息づかいがある。
それは、“何もない”のではなく、“すべてが生まれようとしている”静寂。
古代の叡智は、この世界のはじまりを「無極(むきょく)」と呼びました。
「易」とは何か
古代中国で「易」という字は、「蜥蜴(とかげ)」を表す象形に由来すると言われています。
とかげは脱皮を繰り返す生き物──
つまり、「変化し続けるもの」の象徴です。
この「易」という概念は、のちに『易経(えききょう/I Ching)』という書に体系化されましたが、その根本精神は、「宇宙は絶えず変化している」ということにつきます。
📖 『繋辞伝』には、こう記されています。
「易は太極を生じ、太極は両儀を生ず。」
直訳すると、「変化(=易)は太極を生じ、太極は陰と陽という二つの原理を生じる。」
つまり、
変化そのもの(易)が“一なる源(太極)”を生み、
そこから陰陽という二つの動きが展開する──。
これが宇宙生成の根本法則です。
氣の世界もこの法則をベースに語られます。
静止しているように見える身体の中でも、呼吸、鼓動、意識の波は絶えず変化しています。
“変化=易”そのものが生命の本質。
だから氣功とは、変化と調和しながら生きる術を身につけることのです。
無極 ― すべての始まりは「原初の虚空」
無極とは、完全なる停止ではなく、あらゆる可能性を孕んだ静かな海。
“無”とは欠如ではなく、まだ分かれていない“ひとつ”──
すべての可能性が静けさの中に息づく状態です。
それは「ゼロ=無い」というより、ゼロの奥にある“満ちた空(くう)”。
現代物理学の言葉でいえば、真空の中に微細な振動が満ちているゼロポイント・フィールドにも似ています。
目には見えなくとも、静寂の奥では、すでに宇宙の脈動が始まっているのです。
太極 ― 宇宙が呼吸を始める瞬間
無極の静けさの中に、ふと小さな“ゆらぎ”が生まれる。
それが太極。宇宙がはじめて呼吸をした瞬間です。
静のなかに芽吹く動。
まるで、水面に小さな波紋が広がるように──。
この“ゆらぎ”こそが、氣の誕生。
私たちの呼吸の「吸」と「吐」の間にも、同じリズムが流れています。
宇宙の呼吸と私たちの呼吸は、もともとひとつなのです。
陰陽 ― 世界が姿をあらわす
ゆらぎが方向をもったとき、“対”が生まれます。
光と闇、天と地、内と外、動と静。
この二つの力が交わるところに、あらゆる現象が姿をあらわす。
陰陽とは、対立ではなく、おたがいを支え合う循環。
昼と夜が交わり、呼吸が往復し、
心が揺れながら整っていくように。
氣功の「動中に静あり、静中に動あり」は、まさにこの陰陽のリズムを体現しています。
天地人 ― 宇宙を貫く氣の流れ
天地人とは、この宇宙の生成原理を示す象徴的な言葉。
陰陽の交わりは、やがて天地を生み、その間に“人”が立ち上がります。
天(意識)・地(身体)・人(心)。
この三つが調和したとき、氣は滞りなく流れ、生命は輝きます。
三和氣功の“天地人=三和”とは、この宇宙の秩序を、人の生き方として体現すること。
「氣は天地を貫き、万物を生かす」──
その言葉どおり、私たちひとりひとりもまた、宇宙の呼吸の一部として生かされています。
無極への回帰 ― 静寂に還る道
すべての動きは、再び虚空の静けさへと還る。
それが宇宙の呼吸の法則です。
氣功の瞑想で“静”に還ることは、無極という原点に戻ること。
静中に動を感じ、動中に静を観るとき、私たちは“観ている主体”そのものになります。
呼吸の果てに訪れる静寂──
そこに、宇宙のはじまりとあなた自身の原点が重なっています。

馬明香(ま あすか)
氣功師、ヒーラー、セラピスト
認知科学をベースとしたヒーリングと中国の伝統気功を用いて、病人を辞めて、本来の自分の生き方に立ち返り自己実現を目指す生き方を追求している。
本当になりたい自分を実現し生きることこそ、病気を治すことの唯一の道であり、どんな状況にあっても自分の価値を探求しながら人生を生きることが人の本当の幸せであることを信じて活動している。
「道タオ」に通じる気功的な生き方、すなわち、頑張らず無理せず、自然体であれば、自ずと自分が持っている本来の魅力や能力が発揮され、健康に豊かに幸せに生きられるはず。
人生のパフォーマンスを最高に高めていくための一つの道具として氣功を提案している。