無極から太極、そして陰陽へ
古代中国の宇宙論では、すべての存在は「無極(むきょく)」から始まるとされます。
無極とは、形も区別もなく、ただ静寂と可能性のみを宿す虚空の状態。
そこに微かなゆらぎが生じ、「太極(たいきょく)」が生まれます。
太極とは、静から動への萌芽。宇宙が呼吸を始める第一の瞬間です。
やがてこの太極が「陰」と「陽」という二つの氣に分かれることで、現象世界が顕れました。
光と闇、内と外、主体と客体──すべての対比は、この陰陽の分離から生まれています。
つまり、陰陽の分離こそが宇宙の顕現の原理であり、森羅万象を成り立たせる根本法則なのです。

陰陽の本質:分離と相対性
私たちが「個」として存在するためには、他との分離が欠かせません。
分離があるからこそ「私は私である」と感じることができるのです。
この世界のすべての概念は、比較や対比によってのみ成り立っています。
光を知るためには闇が必要であり、喜びを知るには悲しみを通る必要がある。
それが「陰陽表裏一体」という構造です。
矛盾や分離の中でこそ、私たちは存在を実感し、体験を得ることができる。
それが、この現象世界の本質なのです。
陰陽の四つの基本性質
陰陽をより深く理解するためには、古来より伝わる「四つの基本性質」を知ることが欠かせません。
これらは、氣功の学びの中でも繰り返し現れる普遍的な原理です。
① 対立(たいりつ)
陰と陽は真逆の関係にあります。
明と暗、吉と凶、善と悪、損と得、表と裏──。
対立があることで世界は二極の張力を持ち、そこに動きが生まれます。
② 互根(ごこん)
陰と陽は独立せず、互いに依存し合っています。
冷たいがあるから熱いがわかる。小さいがあるから大きいがわかる。
相手があるから自分が成り立つ──これが相対性の本質です。
③ 消長(しょうちょう)
陰と陽は量的に増減しながらバランスを取り合っています。
昼が長くなれば夜が短くなる。活動が増えれば休息が減る。
増減の中にこそ、生命を保つリズムがあります。
④ 転化(てんか)
陰と陽は質的に変化し、やがて入れ替わります。
夜が極まれば朝が訪れ陽に転じ、夏の盛りはやがて秋に移り陰が強まる。
「陰極まれば陽に、陽極まれば陰に」──この循環のダイナミズムが、すべての命を動かしています。
氣功における陰陽の学び
氣功は、この陰陽の理を頭で理解するのではなく、身体を通して体験する学びです。
- 呼吸:吸う(陰)と吐く(陽)の往復
- 丹田:安定(陰)と活力(陽)の源
- 小周天:任脈(陰)と督脈(陽)の循環
これらの実践を通じて、陰陽の調和が氣の流れを円滑にし、生命のリズムを整えることを体感的に理解していきます。
陰陽統合と存在の哲学
陰と陽は、どちらか一方だけでは成立しません。
相互作用の中で新しい創造が生まれます。
休息と活動、受容と挑戦、静けさと動き──
それらを排除せず、調和させることで生命は豊かに展開していくのです。
陰陽の智慧とは、単なる「中庸」ではありません。
揺らぎながらも全体として調和し続ける、動的な均衡です。
これは氣功実践の核心であり、同時に存在そのものの哲学でもあります。
まとめ:氣功を学ぶうえでの陰陽論
陰と陽の分離と統合は、宇宙と生命を貫く根本原理。
それは、氣功を通して体験する「存在の真実」そのものです。
氣功のあらゆる技法──呼吸・動作・意識──は、この陰陽のリズムを基盤としています。
陰陽を理解することは、修練に軸を与え、迷いなく歩みを深めるための羅針盤となるでしょう。
あなたの内側では、いま「陰」と「陽」のどちらが強く働いていますか?
その揺らぎに耳を澄ませること──そこから氣功の道は始まります。
知識としての陰陽から、体験としての陰陽へ──氣功師養成講座で共に歩みを深めていきましょう。

馬明香(ま あすか)
氣功師、ヒーラー、セラピスト
認知科学をベースとしたヒーリングと中国の伝統気功を用いて、病人を辞めて、本来の自分の生き方に立ち返り自己実現を目指す生き方を追求している。
本当になりたい自分を実現し生きることこそ、病気を治すことの唯一の道であり、どんな状況にあっても自分の価値を探求しながら人生を生きることが人の本当の幸せであることを信じて活動している。
「道タオ」に通じる気功的な生き方、すなわち、頑張らず無理せず、自然体であれば、自ずと自分が持っている本来の魅力や能力が発揮され、健康に豊かに幸せに生きられるはず。
人生のパフォーマンスを最高に高めていくための一つの道具として氣功を提案している。