身体は宇宙の呼吸を映す鏡。静けさの中で、氣が流れはじめる。
はじめに
動と静、熱と冷、拡張と収縮──
この世界のあらゆる現象は、陰と陽という二つの力のバランスで成り立っています。
宇宙のリズムは、私たちの身体の中にも息づいています。
それは、生命そのものが宇宙の秩序と共鳴している証。
私たちの身体は、ひとつの“宇宙の縮図”なのです。
身体という小宇宙 ― 内なる陰陽のリズム
生理学の視点から見ると、私たちの身体は驚くほど精密なリズムで動いています。
体温は1日の中でおよそ0.5℃の範囲で上下し、明け方に最も低く、夕方に向かって高くなります。
血圧や心拍も同様に、昼間には上がり、夜には下がります。
体内のpHは7.35〜7.45というわずかな範囲で保たれ、そのバランスが少しでも崩れると生命は危機に陥ります。
こうした体の内部環境は、外部からのわずかな刺激にも即座に反応し、ホメオスタシス(恒常性維持機能)によって完璧に保たれています。
このホメオスタシスの維持に中心的な役割を担うのが自律神経系です。
交感神経(陽)は心拍を高め、血管を収縮させ、身体機能を活性化し、活動を促進する方向に働きます。
一方、副交感神経(陰)は呼吸を深め、消化と回復を促し、身体を鎮め、休息と修復の方向へ導きます。
さらにホルモン系も、自律神経と協調しながら陰陽のリズムを刻んでいます。
朝に分泌が高まるコルチゾール(陽)は目覚めと活動を促し、夜に分泌されるメラトニン(陰)は休息と再生を導きます。
活動と休息、緊張と弛緩、上昇と下降。
この対のリズムが交互に働くことで、私たちの生命は“揺らぎ”の中に動的平衡(ダイナミック・バランス)を保っているのです。
私たちの身体は、文字通り、宇宙の縮図。
昼夜・動静・上昇と下降──
この絶え間ない陰陽の往来が、「内なる宇宙の調和と秩序」を維持しているのです。
細胞の協奏曲 ― 生命の秩序と共生
私たちの身体は、およそ37兆個の細胞からできています。
その一つひとつが呼吸をし、栄養を取り込み、老廃物を排出し、絶え間なく代謝(メタボリズム)を繰り返しています。
すべての細胞は、自らを維持しながらも単独では存在していません。
肝臓、心臓、神経、皮膚──それぞれの細胞が固有の働きを持ちながら、電気信号や化学物質を通じて情報を交換し、全体として一つの生命体を形成しています。
内なる銀河 ― 電位が奏でる生命の響き
細胞膜の内と外では電位差が生じ、イオンが流れ、微弱な電磁場が形成されます。
それはまるで、身体の中で無数の星が共鳴し合うような振動の交響曲。
私たちの身体は細胞の一つひとつに至るまで、宇宙の縮図──
完全なフラクタル構造が完成しているのです。
共生する生命たち ― 微生物というもう一つの宇宙
さらに、私たちの身体には、無数の常在菌や腸内細菌たちが共に生きています。
腸の中にはおよそ100兆個もの微生物が存在し、その遺伝子情報の総量は人間自身の100倍以上にも及ぶといわれています。
彼らは単なる“外来者”ではなく、私たちの免疫・神経・ホルモンの働きに深く関わる共生的パートナーです。
たとえば腸内細菌がつくり出す短鎖脂肪酸は、脳内の神経伝達物質であるセロトニンの生成を助け、心の安定や幸福感を生み出します。
つまり、「安心して生きる」という感覚もまた、腸という“もう一つの脳(セカンドブレイン)”から支えられているのです。
皮膚の常在菌は、外界からの刺激を緩衝し、免疫システムと協調して防御と共存のバランスを保ちます。
私たちの身体とは、無数の生命が調和して響き合う生態系(エコシステム)。まさに小さな宇宙そのものです。
「自分」という固定された何かがあるのではなく、無数の生命体の関係性、陰陽のダイナミックなバランスの中に、一時的に“私”という現象が立ち上がっているのです。
情報としての生命 ― 氣の次元
現代の分子生物学では、細胞が単に物質として働くだけでなく、光(バイオフォトン)や電磁波を介して情報をやり取りしていることがわかっています。
細胞同士は光で通信し、全体の秩序を保つ。
心が穏やかになると筋肉の緊張がゆるみ、恐れが生まれると呼吸が浅くなり、感謝や安堵の感情が芽生えると、血流と免疫が活性化する。
氣功的に言えば、これはまさに氣=情報の働きです。
氣とは、生命の秩序を保つための情報の流れそのもの。
この視点に立つと、「身体を整える」とは“バランスを取り戻すこと”ではなく、すでに存在している調和を思い出すことになります。
細胞も、菌も、臓器も、すべては宇宙的リズムの中で生きている。
氣功とは、そのリズムを感じ取り、生命全体と共に在り、呼吸する行為なのです。
氣功で「氣を感じる」とき、実はこの無数の細胞が奏でる微細な振動や電位のうねりを感知しているといえます。
手のひらに感じる温かさや、ふわっとした膨らみは、生命そのものが発する“氣の響き”なのです。
氣を感じるとは、生命の秩序を形づくる“情報の共鳴”を感知すること。
それは、身体の精妙な知覚機能が開かれた状態です。
私たちは氣を通して、生命という情報の海と響き合い、身体の奥で、宇宙のリズムを“聴いている”のです。
小さな宇宙としての自分
細胞ひとつを見ても、その中には陰と陽のリズムが刻まれています。
外界からエネルギーを取り入れ(陽)、不要なものを排出し(陰)、その循環を通して新たな生命力を生み出す。
私たちの身体は、絶えず生まれ変わりながら、その都度“完全な調和”を取り戻しています。
だからこそ氣功の実践は、この微細な内的リズムを感じ取ること。それは、自分の中の宇宙と対話する行為なのです。
中医学における陰陽と氣の流れ
古代の人々も、こうした生命のリズムを深く感じ取っていました。
彼らは、身体を流れる氣の道を「経絡」と呼び、
臓腑を陰陽に分類し、それぞれを感情・季節・自然現象と結びつけました。
陽の氣は外へ向かい、温め、動かし、拡散させる。
陰の氣は内へと沈み、冷やし、滋養し、形を与える。
この二つが絶えず交わるところに「生命の呼吸」があります。
氣が滞ると、痛みや不調が生まれ、氣が流れると、自然治癒力が働き、心身が軽くなる。
中医学の治療原理の中心には、「偏りを整え、陰陽を調える」という思想があります。
つまり健康とは、“氣の循環と調和”の状態、つまり「自然」であることなのです。
陰陽バランシングヒーリング ─ 調和を取り戻す氣功セラピー
三和氣功では、この陰陽の智慧を現代に生かすため、独自の氣功セラピー《陰陽バランシングヒーリング》を行っています。
このヒーリングは、症状や問題を“直そう”とするものではありません。
身体と心がもともと備えている自然な調和力を引き出すための氣功ワークです。
身体の歪みや滞りを「問題」として操作するのではなく、ただ「調和」という感覚に焦点を当てる。
すると、自律神経・ホルモン・免疫・氣の流れが自然に整い始めます。
揉む・押すといった物理的刺激をほとんど必要とせず、触れずとも氣が整うのは、施術者が“氣を流す”のではなく、氣が自然に流れ出す場(=調和)を生み出すからです。
施術する者も受ける者も、共に調和に戻っていく。それがこのヒーリングの真髄です。
無為自然 ― コントロールを手放す智慧
バランスを取るということは、すでに自然と宇宙の流れそのものを生きること。
だからこそ、氣を理解する人は「治そう」「正そう」としません。「コントロールしよう」とも思わない。
ただ、委ね、信頼し、任せ、全体を観る。
これが道家の言う無為自然(むいしぜん)の境地です。
しかし、私たちはしばしば、恐れゆえにコントロールし、不信ゆえに分断し、心配ゆえに自然の流れを妨げてしまう。
陰陽バランシングヒーリングが“調和”に焦点を当てるのは、この自然な循環の力を呼び覚ますため。
施術者も受け手も共に、流れを思い出す存在として、その場でひとつの生命のリズムを共有するのです。
調和とは、ありのままを受け入れること
調和とは、陰と陽のどちらかを選ぶことではなく、両方を“ひとつ”として観ること。
光を知る者は、闇をも知る。
健康を知る者は、不調をも抱きしめる。
成功も停滞も、同じ生命の呼吸の中にあります。
「こうであってはいけない」と抵抗すれば氣は滞り、「いま、これでいい」と受け入れた瞬間に氣は流れ出す。
調和とは、世界をそして自分を無条件に受け入れること。
それは、恐れや不信という“分離”を溶かし、すべてをひとつの流れとして感じる意識です。
身体を通して、本当の自分に還る
私たちは、身体を通して氣の流れを感じるとき、思考や感情を超えて“いのちそのもの”とつながります。
丹田呼吸をすると、重心が下がり、心が静まり、内なる軸が立つ。
立禅をすると、天地の氣が通い合い、身体がひとつの回路になる。
小周天を行うと、氣が全身をめぐり、動と静の境界が消えていく。
それは、身体という小宇宙のリズムが、大いなる宇宙の呼吸と重なる瞬間としてかんじられることでしょう。
氣功もヒーリングも、結局はこの「自然なバランスを思い出すための道」。
そしてその道の先にあるのが、自然体で本当の自分に還るという体験です。
陰陽が調い、呼吸がひとつになるとき、私たちは努力や思考を超えて、ただ“自然”に在る。
それこそが、三和氣功が伝えたい生き方の本質です。
結び
身体を調えることは、心を調えること。心を調えることは、宇宙と調和すること。
陰陽バランシングとは、身体を通して「自然のリズムに還る」ための氣功実践です。
細胞の振動、血流の流れ、呼吸のゆらぎ──
それらすべてが“氣”の響きであり、あなた自身が宇宙の一部として生きている証。
調和に焦点を当てることで、生命は本来の道へと還っていく。
そのとき、私たちは自らの内に宿る“自然の智慧”と出会うのです。

馬明香(ま あすか)
氣功師、ヒーラー、セラピスト
認知科学をベースとしたヒーリングと中国の伝統気功を用いて、病人を辞めて、本来の自分の生き方に立ち返り自己実現を目指す生き方を追求している。
本当になりたい自分を実現し生きることこそ、病気を治すことの唯一の道であり、どんな状況にあっても自分の価値を探求しながら人生を生きることが人の本当の幸せであることを信じて活動している。
「道タオ」に通じる気功的な生き方、すなわち、頑張らず無理せず、自然体であれば、自ずと自分が持っている本来の魅力や能力が発揮され、健康に豊かに幸せに生きられるはず。
人生のパフォーマンスを最高に高めていくための一つの道具として氣功を提案している。